ぬかるみの下 11

かぁーごのなぁかのとぉりぃはぁ、



いぃつぅいぃつぅでぇやぁるぅ・・・





いついつでられましょかぁ・・・。





 女の甲高い笑い声が賑やかな通りに響いた。

「あにさん、遊んでおいきいな」

「たあっぷり、奉仕しますえぇ?ふふふ」

朱塗りの格子の向こうから、淫靡な笑い声が袖を引こうとする。

目をやれば、婀娜に大きく胸をくつろげた遊女が手招きをしていた。

鮮やかで美しい、籠の鳥。

しかし籠の鳥が外に出られるのは、その命が費えたときだけ。生きたままここから羽ばたくことは、ない。

あからさまに目を背けると、口汚い罵り声が上がった。

ここは「ぬかるみの街」だ。そのものがそのままにある。

漂う白粉と死臭。煌びやかで生臭い湯屋と同じ匂いのする場所。

ここを今支配しているのは藤也なのだろうか・・・?





 「おあにいさん、こっちにきなさんせ」

足元から聞こえた声に気付き、足を止める。

「そなたは?」

こじんまりと佇んだ禿が、こちらをじい、と見上げていた。先程の花魁道中にいた顔ぶれの一人だ。

「太夫はこちらでありんす」

「・・・そなたは?」

「うちは藤耶と申しなんす。以後お見知りおきを・・・油屋のハク様」

下唇だけに塗られた紅が笑みの形をとると、かの人物を髣髴させた。

「随分な意趣返しだな」

「何の話どす?さあてついてきなさんせ」

禿がまるで滑るような足取りで、すいすいと人ごみを掻き分けて進んでゆく。

罠だ、と頭の中で警鐘が鳴るが、他にめぼしい方法も無い。

虎穴に入らずんば、虎子を得ず。

禿の後姿を追い、ハクは足取りを速めた。





 

 緋い帯が夕陽を反射して、ひどく眩しく映る。

しゃらり、と簪が音をたて、千尋はぼんやりと目を開いた。

頭が重い。

着物も重くて・・・ああ、身体がだるい。

頭の中に紗がかかったように思考が定まらず、記憶があやふやだ。

「目覚めたか?」

低い問いかけに、千尋は緩慢な動作で振り返った。

「あなたは、だあれ?」

どこか舌足らずの言葉は、意識がはっきりしないせい。

そんな千尋の様子など意に介さず、無言で男は椀を差し出す。

「これは・・・?」

「いいからさっさと呑め」

苛立ちもあらわな男の声に、千尋はびくりと身を震わせ、仕方なく椀を受け取った。

どろりとした深緑色の液体は、呑むのに少々勇気がいる代物だったが、男の視線の鋭さに負け、思い切って喉へと流し込む。

に、苦い!!

吐き出したいのを堪え、何とか嚥下したものの、口中に残る苦味に思わず顔を顰める。

「ここから逃げろ。これから先はお前は知らずとも良い」

え・・・?

目を丸くする千尋を尻目に、男は千尋の身体に巻きつけられた重たい帯を外し始めた。

「なにを・・・!?」

「このままでは動けまい。お前に任せると時間もかかる」

確かに固く結われた帯は、不慣れな者が緩めるには苦労しそうな代物だ。

男が千尋自身には全く興味が無いらしい、と察すると、抵抗を止めままなすがままにされる。

「ここからはお前がしろ。着替えはここだ」

重い帯と打ち掛けを放り、男は千尋の目の前に行李を差し出すと、さっさと背を向けて襖を開いた。

「着替えたら呼べ。抜け道を教える」

「あ、あのっ」

襖に手をかけた男が振り返る・・・・浅黒い肌と黒い髪の韋丈夫。

「なんだ」

「あなたとハクは、知り合いなの?」

意識を失う直前。

薄れゆく意識の中で最後に見たのは藤也と、この男だった。

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by mak1756 | 2012-10-08 02:44 | ハクセン2


日々思うことをつらつらと。


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