ぬかるみの下 6

ふわーっと。

立ち昇る煙突を持つのは湯屋の証。

この辺では湯婆婆の取り仕切る油屋がそれだ。

「シュウアク、だこと」

窓からそれを眺めながら同じようにぷかり、と煙を吐き出した女は再び紅い唇を煙管に寄せる。

色と欲に満ちた、醜悪な世界が吐き出す煙。あの立ち昇る煙の白さとは裏腹に、その下で起こる出来事は灰色。更に下に行けば黒く蠢くものたちの怨嗟の声が耐えない。

 きり、と煙管を噛み締めると背後から男の低い声が咎めた。

「藤也。歯が傷つく。そんなに噛むな」

「うるさいよ!いつからアンタ、アタシに物言えるようになったんだい?!」

苛立たしげに藤也は男に煙管を投げつけるが、男はそれを避けようともしない。

「噛むなら俺の指を噛めばいい。お前が傷つくのは耐えられぬ」

「はっ・・・」

何をしても男は決して怒らない。出会ったときから変わらぬ男の態度に藤也は更に苛立ちを募らせて顔を歪める。

「自惚れるんじゃぁ、ないよ?アタシはアンタが竜だから抱かれるだけさ。アンタも客もアタシにとっちゃぁ一緒だよ」

そう言って男にしなだれかかると、がぶり、と男の肩口に噛み付いた。真珠のような歯が男の皮膚を切り裂いて赤い鮮血が藤也の舌に触れる。

その痛みさえ男には快楽。

ふる、と男の首筋が震えるのを感じ、藤也は唇を離し、男の胸元に顔を埋めた。

「抱いとくれよ。アタシを犯しておくれ。その竜の精でアタシを・・・」

言葉に逆らわず、男は藤也を組み敷いて乱暴に犯す。女の望みどおりに。

「あっあっ・・・ハクぅ・・・」

震える唇が此処にはいない男の名を呼んだ。

愛しい男と同じ竜に抱かれることで藤也は自分を慰める。

男は顔色を変えず、しかしより一層強く藤也を突き上げて、絶頂へと導く。

心が繋がらぬ肉の交わりに何の意味があるのか。

答えは、暗闇の中にあり、いまだ見えない。









 時同じく。

湯屋の上階。人気のない奥の部屋で、艶かしい吐息が夜の空気を震わせる。

 暗闇の中ならば、恥ずかしさに耐えられる、と思っていたのに。

く、と寄せられた眉根が悩ましく、次第に吐息が荒くなる。

「・・・くぅ・・ふっ」

噛み殺せなかった喘ぎが漏れて、羞恥で目を閉じた。

「何故、堪える?」

愉悦を含んだ問いは答えを求めるものではなく、追い詰めるためのもの。少女が羞恥に堪える姿を見たくてわざと訊くのだ。無論、少女が答えられるわけもない。

ハクも答えを求めず、ただ唇に薄い笑みを刻んで、指で舌で唇で、ゆっくりと確実に少女を追い詰める。

逃げられぬよう、退路を断って。

限界まで追い込んで、自分から強請るようになるまで。

「ハ、ク・・・も・・・っ、ダメェ・・・」

甘えるような声がハクの鼓膜を震わせる。

「もう少し、我慢おし」

優しい声の抑止の声は、千尋には耐え切れるものではなかった。

ハクによって開かれた身体は、彼を迎え入れるために蕩けんばかりに熱くなっているというのに。

「やあ・・・っ」

焦れて喘ぐ様は普段の彼女からはおよそ伺えないものだ。

少女の、自分の前でだけ見せる「女」の表情に、愛しさと嗜虐心が同時に沸き起こる。

 大事にして、傷つけず、笑わせたい。

 滅茶苦茶にして、傷つけて、泣かせたい。

相反する感情がハクの中を暴れまわり、結果彼女が振り回され、翻弄される。

 「あ・・・んっ」

散々焦らした後に彼女の中に入るとハクの背中がちり、と痛んだ。千尋の爪が白い背中に傷をつける。竜の回復能力ゆえに明日には消えるであろう傷跡。

一生消えなければ良いのに。

刻印のように、私が千尋のものだと言う証に残ればよいのに。

せめて彼女に自分の所有の印を刻もうと、ハクは一層激しく千尋を抱く。

「やっ、あ、あ、あああああ!!」

一際高い嬌声とともに、千尋の背中が弓なりに仰け反り、自分を貫いたハクを締め付ける。

「ん・・・っ千尋っ」

「はあ・・・っ」

千尋が達すると同時にハクも彼女の中に自分の熱い迸りを解放した。









何度かの交わりの後、精魂尽き果てて、千尋は眠りに落ちていった。

竜は絶倫だ。強靭な肉体ゆえに果てることを知らず、情を交わすことを心底楽しむ。

もろき人の娘がそれについてゆける筈もなく、今は夢の中を彷徨っているであろうその瞼に口付て呟く。

 「私の子を、産んでおくれ」

まるでそれは祈りのように。

異種族、まして人と神の間に子を為すことは難しい。生まれてきたとしても半人半竜の異形やもしれぬ。

それでも私はその子を愛するだろう。

千尋をこちらに縛り付けておくのに、きっとその子は役に立つだろうから。

 「早く・・・私の子を産んでおくれ、千尋」

まるでそれは呪いのように。

何も知らぬ娘はただ眠りつづける。

その身に重い竜の寵愛を受けながら。

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by mak1756 | 2012-09-28 01:55 | ハクセン2


日々思うことをつらつらと。


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