ぬかるみの下 3

あれから千尋は二人のことが気になるあまり、仕事も上の空だった。

ぼうっとしているせいで札を間違えたり、高価な皿を落としそうになったり・・・そのたびに兄役や父役といった上司に怒鳴られるがそれさえも千尋の耳には届いていない。

 そんな様子にやがては怒るほうも呆れるころ、油屋の一日が終わった。

従業員たちが風呂へと向かうのに千尋も混じる。遅れてやってきたリンが千尋にきづき、その肩を叩いた。

「よっ、セン、どーしたあ?元気ねえなあ」

リンは今、その機転の速さをかわれてハクの助手のような仕事をしている。ただ小さなミスが多いため、上司であるハクには未だに頭が上がらないのだが。

いけ好かないヤツの下で働くのは真っ平ごめんだと思ったものの、給料は小湯女のそれより数倍高い。いつかここを自力で出てゆこうとしているリンにとってその金額は大変魅力的だった。背に腹は変えられぬ。口うるさい帳簿頭には目を瞑った。

今日も小言からやっと解放されて、ひとっ風呂あびてこよう、というところで千尋に会ったのだ。

仕事が違ってもリンにとってセンはかわいい妹分には変わりない。その妹分の溜息の原因が大抵はあの帳簿頭に拠るものだということもリンは経験上よく知っていた。

「リンさん・・・」

見上げた瞳はうつろ。

あちゃー。こりゃ重症だ。

額を右手で押さえた。

ったく、あんなヤツのどこがいいのやら。

妹分のこれだけは認めがたく、また理解できないところである。

 ある日突然彼女は油屋に「戻って」きた。ハクと共に。

戻ってきたセンは前に見た彼女よりも随分と大人になり・・・女になっていた。

「もう7年経ったんだよ」

とセンはころころ笑ったが。

あの野郎のセンを見る目はただ事ではない。気づいていないのは当の本人だけだ。

あの野郎は気に入らないがこのままでは「セン」が可哀想だ。

そうやってリンはついつい二人のことに首を突っ込む羽目になる。

「またハクの野郎か?あいつ図体はでかくなったけど、てんで気がきかねえからなあ」

「そんなことないよ。ハクは優しいよ」

おまえだけにはな。

という言葉を飲み込んでリンは千尋の顔を覗き込む。

「大丈夫かよ。悩みがあるなら俺にいえよ?」

少し躊躇った後、千尋は口を開いた。

「・・・あのね」









 千尋から事の次第を聞いたリンは、どこか複雑な表情を浮かべた。

「まあ、あいつに限って、女がいた、なんてことは、ねえと思うぜ・・・?」

快活なリンにしては歯切れの悪い応えだった。

「リンさん・・・?」

「なんでもねえよ。気にすることないって。あいつ見かけはいいからさあ、入れ込んでる女がいたっておかしかねえよ」

「そう、だよねえ」

「そうそう!!さ、さっさといこうぜ!」

リンの態度が気にはなるもののそれ以上の追求は出来なかった。

あの女の人、何かあるのかな・・・?









 布団に入っても気になって眠れなかった。何度か寝返りを打つが一向に眠りは訪れない。

あのときのリンの様子では、これ以上はどんなに聞いても教えてくれそうもないし。

こうなったら。

・・・ハク本人に聞こう。

たとえむげにあしらわれても、それでも今のままよりはましだ。

こっそり布団から起き上がると、千尋は女部屋から抜け出した。

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by mak1756 | 2012-09-22 02:17 | ハクセン2


日々思うことをつらつらと。


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