花嫁 17

幸福は、儚い夢。

一瞬の、うたかた。

許されぬものに与えられる過ぎたる温情。





哀れな、白竜よ。

愚かな、白竜よ。

その身に過ぎたる幸福の報いを、今こそ。









 ひたむきな瞳だった。

ただ、ひたすらに答えを求める、混じりけのない真摯な瞳。

それゆえに、ハクには堪えた。

心がひやりとする。誤魔化しや嘘は許されないだろう。けれども、それでもハクは嘘をつく。

 「千尋が去ってから、現れた」

短い答えを聞くと、千尋はひどく傷ついた表情を浮かべ、そして瞳を伏せる。

「千尋?」

千尋の態度を訝しみ、ハクは彼女のおとがいを掴んで、己の方を向かせる。

「千尋、どうした?」

 「うそ」

「千尋?」

「どうして、うそをつくの?」

答えられず、ハクは唇を引き結んだ。

「私、知ってる。ハク、ここは」

 言わないで。

「ここは、

「言うな・・・・・!」

悲痛な声が重なる。けれども、千尋は言った。

「ここは、ハクの作った世界なのでしょう?」

空を振り仰ぐ。





 かしゃん・・・と。

 何かが壊れる音が、かすかに響く。





「リンさんたちは?おばあちゃんたちは?皆何処に行ったの?」





 かしゃん、かしゃん。

 しゃりしゃり。

 流れだす。





「知りたいか?」

低い声だった。温度を感じさせぬ。威圧を隠さずハクは尋ねる。

 それでも。

千尋は頷いた。

「ええ、知りたいわ。私は、嘘の中で生きていたくない。嘘をつくハクを、これ以上見ていたくないの!!」





 壊れる。流れ出す。

 しゃらしゃらと、桜の花が散華するように・・・世界が。





「殺した」

ごく短い返答。

「全て。何もかも。殺し、捧げた」

すべてすべて、命あるものの力をこの世界に。





一瞬で理解できず、千尋はハクの言葉を鸚鵡のように繰り返した。

「ころ、した」

頷く。

「なにも、かも」

何もかも。誰も彼も。

千尋の唇が震え始め、大きく瞳が見開かれる。





絶叫。









「いやああああああああ!!!!!」









拒絶。

そして絶望。









 ハクは瞳を閉じる。

千尋の血を吐くような叫び声を聞きながら、それでも、きっと己は同じことをするだろうと思う。

彼の腕から逃れようと暴れる彼女を押さえつける。もう、離さない。離したくない。
 この世界。虚構と欺瞞に満ちた、美しい世界。既視感を誘うように織り交ぜられた風景。

彼女を手に入れるための。

契約の力を利用して・・・。

 眼裏に浮かぶ紅い光景。はらわたをひきちぎった感触を、まるで昨日のことのように覚えている。

最期まで、あの五月蝿い千尋の姉貴分は、ハクを哀れんだ。

「センはこんなこと、望んじゃいねえよ」

最期まで、命乞いすらせず。ただ哀しげな眼差しを寄越す。









「可哀想に」

「可哀想に。お前は結局堕ちた神のままなんだな」









堕ちた。何もかも殺した。紅い紅いこの手で、千尋を抱きしめる。

ぬくもりの確かさを求めて、きつくきつく。

















世界の壊れる音が、静かに、響き。

女神の哄笑が、遠くから聞こえる。

それでも。









世界が、壊れてゆく。

そして・・・・・・どこへ、行くのだろう?

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by mak1756 | 2012-09-17 00:16 | ハクセン


日々思うことをつらつらと。


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