ぬかるみの下 2

千尋は逡巡していたが、すぐその必要はなくなった。

「セン?そこで何をしている」

詰問の声と共に暖簾をくぐり、長身の青年が姿を現した。

「あ・・・っ」

驚く千尋を尻目に、女は青年にかけよっていきなり抱きつく。

「・・・何用です」

「会いたかったんだよう、ハク。いけないと分かっていてもつい来ちまった」

女の甘い声と冷静なハクの声が千尋の鼓膜に絡みつく。

女はそのまま硬直した千尋をちらりと見、紅い唇を歪ませた・・・嘲笑の形を作って。

しかしハクは小さく嘆息すると

「帰りなさい。ここはそなたのようなものがくる場所ではない」

と冷たく言い放った。

それでも女はハクの首に腕を巻きつけて、いきなりその冷たい唇に己のそれをぶつける。

「・・・・・っ」

千尋は茫然と、ただ目の前の出来事を見つめるしかできなかった。あまりのことに声すら出ない。

当のハクはというと、女の唇から顔を背け表情も変えずに言った。

「セン、そなたは戻りなさい」

あくまでも冷静な青年の声に、まるで冷水を浴びせられたように千尋は大きく身震いした。何か言って欲しくて問いかけの視線を投げかけるがハクは気に留めず尚も言う。

「聞こえないのか?戻りなさい」

冷たい声に千尋は唇を噛み締めて従業員用の出入り口へと足を向ける。

背後の二人の様子が気になったが振り返ることをハクはゆるさず、そのまま千尋は扉を締めた。

それでも聞こえる、女のくすくすという笑い声。









 千尋の姿が消えるとハクはおもむろに女を引き剥がした。

「あん、つれないねえ、ハク。あのぬかるみの町からわざわざ会いにきたって言うのにさァ」

しどけない女の仕草にもハクの心はいささかの動揺もみせない。つまらない男、と女が悪態をつく。

「何をしに来た」

「何って・・・アンタが見初めたって言う人間の娘を見物にね。あれがそうなンだろ・・・?」

と女は従業員用の入り口へねっとりと視線を動かす。

「どーんな別嬪かとおもってきたのにさァ。期待はずれもいいとこだよ」

あざけりを含んだ言葉に初めてハクの表情が動いた。

「藤也。いい加減にしろ。私にはそなたを消すことぐらい造作もない」

「おやあ、顔色が変わったねえ?。そうかい、アンタ、あの娘に惚れてるんだねえ。人間だって言うのにさァ・・・はは、とんだお笑い種だねえ」

藤也、と呼ばれた女は高らかに笑う。ハクは何か言おうとして口を開きかけたがこちらへやってくる気配に気づいて止めた。

「ちょいと、ハクサマ!・・・と客か?」

見ればリンがなにやら書類を手に抱えてやってきていた。ぞんざいな態度を女に気づいて慌てて居住まいを正す。

「それじゃあね、ハク。今度は来ておくれよ・・・待っているから」

リンの登場に、女は再びパラソルをさして踵を返した。振り向きざまの微笑みは蠱惑的で、リンでさえ身震いするほど。

「ハクサマ・・・ありゃあ」

「・・・私に用があったのだろう?手短に話せ」

問いかけを遮ってハクは暖簾に向かって歩き出す。

リンはしぶしぶその背中を追った。

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by mak1756 | 2012-09-19 00:01 | ハクセン2


日々思うことをつらつらと。


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