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ぬかるみの下 4

 千尋の話に出てきた女は、昼間ハクと一緒にいた女だろう。

いや。

あれは・・・間違いでなければ。

リンは昔聞いたハクの噂を思い出す。

しかしそれはさすがに千尋には聞かせがたいものだった。あまりにも下世話すぎて話せない。

これは自分が黙っていれば済むことだ。そう。

 ごそ、と何かが闇の中で動く音が耳に入った。衣擦れの音にうすく目を開ければ、件の少女が忍び足で部屋を抜け出してゆくところだ。

あの、馬鹿。

心の中で思い切り舌打ちする。

きっとあの帳簿頭の部屋に行くのだろう。まったく乙女心はリンには理解不能だ。

「あーあ。さっ、寝よ寝よ」

きっと少女は朝になるまで戻るまい。竜が彼女を放しはしないのだから。









 ひた、ひた。

廊下を忍んで歩く音でその人物を探り当て、ハクは小さく笑う。

読んでいた書物から顔を上げて立ち上がると、扉の前に立った。

戸の向こうの躊躇う空気を感じ、がら、とおもむろにあけると。

「!!」

予想通り大きく見開かれた瞳に、ハクはまた笑った。

「こんな夜中に何の用だい?千尋」

分かっているであろうことを、意地悪をしてわざわざ問う。

その意地悪は愛しさ故に。困った顔が、見たいから。

「ご、ごめん寝てた?」

「いや・・・起きていた。廊下は寒いだろう、こちらへお入り」

そっと千尋の手を引いて部屋の中に入れ、扉に錠を下ろす。

がちゃり。

乾いた金属の音が夜の静けさを打った。



――――紳士は扉に鍵を、かけぬ。



いつぞやに聞いた言葉。

構わぬ。自分は紳士とは程遠い、狂人なのだから。

固く固く、扉は閉まる。扉は朝になるまで開くことはない。









 もじもじと落ち着かない様子で千尋は視線を彷徨わせた。

さて、ここまで来たが、何と切り出したらよいのだろう。

「千尋」

「は、はい!!」

元気のいい答えにハクは苦笑し、彼女を引き寄せ抱きしめる。

「ハ、ハ、ハク!!??」

「何を慌てているの?こんな時間に尋ねてくるということは、そう言う期待を抱いても良いのであろう?」

ちがう。

そう言おうとしてわずかに開いた唇に、冷たい唇が重ねられた。



あ。

まただ。

また、ながさ、れる。



「や・・・」

最早立っていることさえ困難だった。

がくがくと膝が震え、ハクが支えていなければ、その場に崩れおるだろう。

口接がはじめてというわけでもないのに、いまだこの少女は慣れると言うことが無いらしい。

胸を押し戻そうとする腕を捕らえる。弱弱しい抵抗に何の意味があるというのか。かえって青年の欲情を煽るだけだ。

「千尋」

首筋に顔を埋めて囁けば、小さくその身体が震える。

「ハ・・・ク・・・」



訊きたい事があるの。

それなのに。



「あ・・・いやぁ・・・んんっ」

問いの代わりに唇から漏れるのは、意味の無い言葉と気だるげな吐息だけ。

やがて吐息が喘ぎに変わり、言葉は懇願となり。

 「お・・願い、ハク・・・っ」

飢(かつ)えた竜の青年を満たす。





 訊きたい事があるのに。

それさえも忘れさせる程に激しく激しく愛し、犯し、泣かし。





「竜は優しいよ・・・そして愚かだ」





静かな老婆の声は、今の千尋には届かない。

竜が彼女を快楽のうちに閉じ込めているのだから。

by mak1756 | 2012-09-22 02:18 | ハクセン2


日々思うことをつらつらと。


by mak1756

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